脱毛症診療ガイドラインとは?
日本皮膚科学会が発表している「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」というものがあります。これは、端的に言いますと、各種の育毛薬(内服、外用)、道具を使った育毛方法(レーザーなど)等の手法が、「有用なのか?」ということを、医学的な観点で、有効性や安全性を指し示したものとなっています。
同ガイドラインの目的を抜粋しますと、
科学的根拠に基づいた情報を選び出し,医師,患者双方にとって標準的治療法を提示することで,脱毛症診療水準を向上する
ということになっています。
現状の最新版は、「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017 年版」と、2017年のものです。今回の記事では、その概要について記事にしています。
脱毛症診療ガイドラインの概要など
男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017 年版」は、既に発表されている、「日本皮膚科学会男性型脱毛症診療ガイドライン2010」を基に改訂されたものです。男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン作成委員会のメンバーによって作成されています。
同ガイドラインの免責事項の項目には、以下の内容が書かれています。抜粋です。概要としてこちらの方が理解の手掛かりになりそうだったので、転記しています。
- 臨床皮膚科医の視点に立って,現段階における医療水準を客観的事実から記載したものである.
- 診療ガイドラインは個々の症例に応じて柔軟に使うものであって,医師の裁量権を規制し治療方針を限定するものではない.
- 保険診療上認められていない治療法や,治療薬であっても既に本邦や海外において医学的根拠のある場合には取り上げ,推奨度も書き加えた.
- 保険適応外使用についても記載した部分もある.
- ガイドラインとは医学的根拠に基づく記載であり,保険診療の手引き書ではない
このガイドラインに書いてあるからといって、治療に制限を加えるものではない、という旨が書かれていると理解し、興味深いです。つまり、
メインは、クリニカルクエスチョン
このガイドラインの最もメインの部分は、Clinical Question(CQ)で、わが国における脱毛症の治療について検証しています。下表は、各種の治療方法についての質問・クエスチョンとその推奨度についてまとめたものです。
なお、表1右側の推奨度の分類は、以下のようになっています。
推奨度 | 内容 |
---|---|
A | 行うよう強く勧める (少なくとも1 つの有効性を示すレベルI もしくは良質のレベルII のエビデンスがあること) |
B | 行うよう勧める (少なくとも1 つ以上の有効性を示す質の劣るレベルII か良質のレベルIII,あるいは非常に良質のIV のエビデンスがあること) |
C1 | 行ってもよい (質の劣るIII~IV,良質な複数のV,あるいは委員会が認めるVI のエビデンスがある) |
C2 | 行わないほうがよい (有効のエビデンスがない,あるいは無効であるエビデンスがある) |
D | 行うべきではない (無効あるいは有害であることを示す良質のエビデンスがある) |
また、表2中のエビデンスレベルの分類は、以下の表3のようになっています。ここでは詳しくは触れません。
A.エビデンスのレベル分類 |
---|
I システマティック・レビュー/メタアナリシス |
II 1 つ以上のランダム化比較試験 |
III 非ランダム化比較試験 |
IV 分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究) |
V 記述研究(症例報告や症例集積研究) |
VI 専門委員会や専門家個人の意見 |
CQ14 ミノキシジルの内服、→ 行うべきではない、となっている件
上記の表1で、最も目を引くのは、クリニカルクエスチョンの、
CQ14.ミノキシジルの内服は有用か?
に対して、推奨度D(行うべきではない、とされている点です。巷のAGAクリニックでは、ミノキシジルの内服薬が普通に処方されているし、薬の個人輸入代理店でも販売されているからです。これについての詳しい解説は、後日、記事にしたいと思っています。
まとめ
表1のガイドラインに記載の治療法で「推奨度D」であったとしても、植毛手術についても、世の中では施術されているわけで、このガイドラインは、禁止事項の基準というわけではないようです。個人輸入代理店経由で、ミノキシジルやフィナステリドを自己責任に服用される方には、一度、読んでおいていただきたい資料ですね。